研究テーマ
触媒的酸素酸化反応の開発
 分子状酸素は地球上普遍的に存在する酸化剤です。ほとんどすべての生物は呼吸により酸素分子を取り入れ、生命維持のエネルギーを獲得していま す。
 有機化学ではこれまではクロム酸などの重金属酸化剤による酸化が利用されてきましたが、環境負荷の問題から、よりクリーンな酸化剤の開発が求め ら れています。
 我々はコバルトやマンガンなど入手容易な金属の錯体を触媒として用いることにより、分子状酸素を利用する酸化反応が実現され、立体選択性のコン ト ロールも可能になることを見出しました。

触媒的不斉ボロヒドリド還元 反応
 不斉還元反応は医薬品や機能性材料化合物の合成に不可欠な基本反応です。 水素化ホウ素ナトリウムは安価安全なヒドリド還元剤であり工業的に広く用いられているにもかかわらず、不斉還元への適用は知られていませんでした。
 我々は光学活性コバルト錯体を触媒として用いることにより、種々のケトンやイミン類、α,β-不飽和カルボン酸アミドなどが高い触媒効率・高い エナンチオ選択性で対応する化合物に変換できることを見出しました。また分析手法と計算化学を組み合わせることにより反応中間体の構造も提案しま した。
ビアリール類のアトロプ不斉 の触媒的合成
軸不斉を有するビアリール化合物は生物活性を示す化合物や不斉合成触媒の配位子として注目されており、効率的な合成法の 開発が求められています。
ビア リール化合物にラクトン環を形成すると適切な温度条件でラセミ化することを利用し、触媒的な不斉合成反応を適用すれば【動的速度論的光学分割】、目的とする光学活性ビア リール化合物が高いエナンチオ選択性・高い効率で得られることを見出しました。
二酸化炭素を利用する有機合 成反応の開発
  二酸化炭素は最も酸化された炭素化合物であるため化学的な反応性に乏しく有機化学的な利用は限られています。
  我々は銀塩触媒の存在下、プロパルギルアルコールと二酸化炭素が反応し、環状カーボネートが得られることを見出しました。
  この反応をDMFなどの極性溶媒中で行うと、今度は分子内転位反応を経由してα,β-不飽和カルボニル化合物が得られることを見出しました。環 状カーボネートが得られる反応では、最近、触媒的不斉合成への展開にも成功しました。
【PJ研究】二酸化炭素を原料とするポリカーボネート合成法の開発
  プロピレンオキシドなどのエポキシドと二酸化炭素はコバルトなどの金属錯体触媒の存在下で交互共重合し、ポリカーボネート樹脂になります。この樹脂は、重量の43%が二酸化炭素に由来します。官能基選択性・位置選択性・立体選択性などを制御することにより、樹脂物性が改善されます。